相談援助分野の具体的内容について整理し始めて2回目になります。
前回は相談援助の変遷をたどりながら、システム思考や理論についてまとめました。
今回は相談援助の対象を明確にしながら、
- 実践モデル
- 具体的なアプローチ
この2点を中心にまとめていきます。
- システム思考とシステム理論
- 相談援助のモデルと具体的なアプローチ(A)←今回ココ!
- 相談援助の過程
- 相談援助の技術(A)
はじめに
まず
「相談援助の対象になるのは誰(何)?」
を考えてみましょう。
対象としては
- 個人
- 家族
- グループ
- 地域
の4つが考えられます。
それぞれの特徴を整理すると、以下のようになります。
相談援助の対象 | |
個人 | クライエントを個人として捉え、一人一人のニーズやケースに個別に対応する。 |
家族 | 家族全体を一つのシステムとして捉え、クライエント⇄家族の円滑的な関係に配慮する。 |
グループ | 集団としての個別性と集団内における個人の個別性との違いを把握し、グループ内の相互関係や他のグループとの関係性に配慮する。 |
地域 | 行政区域に捉われず、住民の生活空間等も理解し、人間関係の調整や社会資源の調整を行う。 |
円滑的な関係とは
システムの要素が互いに作用し合い、循環している関係
を指します。
ソーシャルワーカーは、問題のある循環が好ましい循環に変わっていくように援助していくことが求められます。
実践モデル
実践モデルは「相談援助①概要」でも取り扱っていますので、参照された上で確認してください。
具体的には
- 治療モデル(医学モデル、病理モデル)
- 生活モデル
- ストレングス・モデル
この3つのモデルがあります。
それぞれの特徴をまとめると、以下のようになります。
実践モデルの特徴 | |
治療モデル | クライエントの生活問題には病理的な原因があるという前提で、原因の除去・修正を行います。クライエント個人の成長や発達がなされて問題の解決と考えます。 |
生活モデル | ジャーメインとギッターマンによって提唱。システム理論をソーシャルワークに取り入れたモデルのこと。またバートレットは社会生活機能という概念を用いて、システム理論が社会福祉で発展していくきっかけを作りました。 |
ストレングス・モデル | サリービーがストレングス視点(強み、長所の意)を体系化し、クライエントの問題点ばかりに目を向けず強みや長所に焦点を当てた援助を行うよう考えました。またストレングスは個人だけでなく地域にも存在することから、ラップとゴスチャは地域を「資源のオアシス」と捉えました。 |
具体的なアプローチ
相談援助におけるアプローチは、実践モデルの変化に連動しています。
実践モデルの写真(一覧表)と照らし合わせながら確認してください。
具体的なアプローチとしては
- 診断主義アプローチ
- 心理社会的アプローチ
- 機能主義(機能的)アプローチ
- 問題解決アプローチ
- 課題中心アプローチ
- 危機介入アプローチ
- 行動変容アプローチ
- エンパワメントアプローチ
- ナラティブ・アプローチ
- 実存主義アプローチ
- 解決志向アプローチ(ソリューション・フォーカス・アプローチ)
- フェミニストアプローチ
があります。
診断主義アプローチ
ハミルトンやトールによって体系化されました。
クライエント自身の精神や人格を重視し、援助者による「調査→診断→治療」の過程で問題解決を目指します。
心理社会的アプローチ
ホリスが機能主義アプローチの理論を取り入れて提唱しました。
「状況の中にある人間」をケースワークの中心概念とし、人と状況の相互作用による全体の関連性に重点を置きました。
パーソナリティの変容と状況の機能を高め、面接を通じて援助を行います。
機能主義(機能的)アプローチ
- ランクの自我理論をベースにして、
- タフトとロビンソンの「クライエントの意志を強調」
したアプローチです。
ソーシャルワーカーが所属する機関の働きに着目し、機関におけるソーシャルワーカーの役割を重視しました。
問題解決アプローチ
パールマンが
診断主義アプローチに機能主義アプローチを取り入れて(統合して)
提唱しました。
ワーカビリティと呼ばれる「クライエントが支援を活用する力」を重視し、
ケースワークとは、クライエントが援助者との役割関係を通じて展開されていく問題解決の過程である
と考えました。
パールマンはケースワークを構成する要素として
- 人(person)
- 問題(problem)
- 場所(place)
- 過程(process)
の4つをあげており、パールマンの4つのPといいます。
課題中心アプローチ
リードとエプスタインらが既存の理論を折衷して提唱しました。
援助者はクライエントとともに課題を設定し、短期の達成に向けて計画的なプロセスを明らかにして援助を行います。
対象となる課題はクライエントが意識できるものであり、具体的な問題で設定されます。
クライエントが気づいていない問題は対象とはなりません。
危機介入アプローチ
ラポポートとキャプラン(カプラン)によって提唱されました。
危機状況に直面したクライエントや家族に対し、早期の介入を重視します。
精神保健分野の危機理論やストレス・コーピング理論を根拠に行います。
行動変容アプローチ
学習理論に基づく行動療法を背景として理論化されました。
モデリングによって
望ましくない行動を減らして、望ましいものに変化することにより問題行動の減少を目指す
ことを指します。
特徴として
- 問題行動の原因の解消や意識・思考の変容を直接的な目的とはせず、
- 問題行動それ自体の減少や修正を目的
としています。
エンパワメントアプローチ
ソロモンが提唱したアプローチで
抑圧されている人が主体性を取り戻すことを援助の目的
とします。
グティエレスは
エンパワメントアプローチでは集団を通しての体験が重要である
と述べました。
ナラティブ・アプローチ
ホワイトやエプストンによって提唱されました。
「言語や認知により現実がつくられる」とする社会構成主義
を背景としています。
援助者はクライエントが語る物語を傾聴することで、問題を外在化します。
次に援助者との対話により、クライエントが確立した自己を否定する物語を、自身で別の物語に書き換えるよう援助し、問題解決を図ります。
実存主義アプローチ
キルケゴールやハイデッガーらの実存主義哲学を背景に、クリルによって提唱されました。
- クライエントが自らの存在の意味を把握し
- 他者とのつながりによって自己を安定させ
- 疎外からの解放
を目指します。
解決志向アプローチ(ソリューション・フォーカス・アプローチ)
主に心理分野で活用され、数回の面接で治療する短期療法(ブリーフセラピー)の一つです。
原因を追求していく心理療法とは異なり、
- クライエントがこれからどうなりたいかという目標をイメージして
- 未来の解決像を構築していくことで望ましい変化を短期的に引き出す
手法のことです。
面接の技法として
- クライエントに解決状態をイメージしてもらうミラクル・クエスチョンや
- 経験や今後の見通しを数値に置き換えた評価を尋ねるスケーリング・クエスチョン
などがあります。
フェミニストアプローチ
女性にとっての差別や抑圧などの社会的現実を顕在化させ、個人のエンパワメントと社会的抑圧の根絶を目指す考えです。
終わり
今回はここまでです。
たくさんの人名や理論、特徴がある領域なので、まずは確実にインプットしていきましょう。
次回は「相談援助の過程」をまとめる予定です。